• いぬ語を学ぼう

オカンの毎日犬生活

    「あんがい見られてるかもね」 夜の散歩は静かだ。 静かなだけに、並んだ家々の中からいろんな音や声が聞こえる。 テレビを観ながら笑っている子どもたちの声 ラッパのように吹き鳴らす鼻をかむ音 シャワーとともに流れる大きな歌声 いい調子で歌ってんなと、それにつられて私も歩きながら歌う。 ありの〜 ままの〜 姿みせるのよ〜♪ 誰もいないのをいいことに鼻歌レベルではない、まあまあの音量で口ずさむ。 横で歩くウィペ男が、え?なに?と、ちょっとドキドキしている。 そんな調子で歩いているとウィペ男が立ち止まってクンクン匂いを嗅ぎはじめる。 かなーと私も立ち止まる。 すると、スッと私たちを追い越す影。 見ず知らずの仕事帰りのサラリーマンのお父さん。 あら、いつから私たちの後ろにいたの? いつから私のありのままの姿を聴いていたの? 昼間なら、私の顔が真っ赤になっているのが丸見えだろう。 アナ雪のエルサの作った氷も溶け出すくらいに、私は頭から湯気を出しているに違いない。 でもね、夜だから 暗くて顔見えないから大丈夫 ホホホ…と一人で笑い、また鼻歌を歌い出す。 あー、オバサンって楽ちん♪ そう、私はオバサンなので気になると誰にでも声をかけて質問する。 近所を散歩しているとき、数年前から仔犬を飼い始めた女の子とすれ違うようになった。 その女の子は当時、中学3年生か高校1年生くらいだったと思う。 朝の散歩のときは、学校に行く前の制服姿の彼女。 夜には私服に着替えた彼女。 夏休みには部活の朝練前の体操服姿の彼女。 あの頃から数年経った今、彼女はお化粧をうっすらとするようになり、髪の毛の色も明るくなった。 大学生になったのかしら… 時が経つのは早いものよ、可愛らしかった女の子がいつの間にやら大人になってるわ…と久しぶりに見かけた彼女を見て思う。 おや? おやおや? なんだか前より散歩が上手になってる? せまい道でワンコ連れの人とすれ違いそうになれば、スッと反対の道に移動する。 犬が苦手なワンコが見えてきたら、ワンコより先に気付いてスッと角を曲がって道を変える。 他のワンコや飼主さんとの距離の取り方が絶妙なのである。 それが気になって気になって声をかけたいのに、見かけたときにはスラリと去ってしまうのでなかなか声がかけれない。 それがついに先日、やっとこさ声をかけることができたのだ 街路樹をはさんで、向こう側にいる彼女とワンコ。 他に人もいない。 犬たちも樹のかげでお互いに姿が見えない。 チャーンス 「すみません! ずっと話しかけたかったんだけど、質問してもいい? なにか犬の勉強とかしてるの?」 「えっ? あ、はい。犬関係の専門学校行ってます」 急に話しかけられ、戸惑いながらも返事をしてくれた。 「やっぱりね! お散歩がすごく上手だと思ってたのよ!」 フフ、私の目は確かだな… ありがとうございます、と笑顔でスラリと去っていった彼女。 彼女がリードをグイッと引っ張るところを見たことがない。 彼女の犬がリードをグイグイと引っ張るところを見たことがない。 彼女が大きな声で犬に命令してるところを見たことがない。 彼女の犬が変に興奮してハアハアしているところを見たことがない。 なんだかいつ見ても落ち着いてるのだ。 彼女は犬のことを知っているから、犬に注意をはらい、周りの環境にも注意をはらい、落ち着いた散歩ができている。 ただ歩いているだけなのに、にじみ出てますよー!ステキですー!と叫びたい。 あー、私も気をつけよう。 ありのままに歌って、ウィペ男をドキドキさせている場合ではない。 マジメに散歩するからねとウィペ男を見ると、 「オカンは歌だけじゃなくて独り言もデカいぜ」と横目でチラリと私を見てくる。 オバサンになると声がもれちゃうのよ。 呆れた顔をせずに私の散歩に付き合ってちょうだい。 上手に歩けるようにがんばるから。 みなさんはリードを引っ張っていませんか? その後ろ姿、あんがい誰かに見られているかもしれませんよ。        担当 みんなのオカン

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